911DAYS 編集長 日比野 学 氏

ce022<2011.11.21>
クルマ人生そのもの。ポルシェで人生が変わりましたから。

911DAYS 編集長 日比野 学 氏

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Q. 日比野さんがポルシェに乗るようになったきっかけとは?

元々は、ポルシェは格好いいなあとか、ポルシェ乗っていたら女性にもモテるよなとか、単純なものでした。浅はかというか、純粋というか . . . (笑)。僕たちの時代は丁度バブルを経験した時代でもありましたから、ポルシェのようなクルマに乗っていないと相手にしてもらえなかったですよね(笑)。ポルシェというクルマに一度も乗ったことがない中で興味をもつということはそういうものでしょうね。ただ、ポルシェを所有してわかったのは、けしてモテるわけじゃないということですね(笑)。これは失敗したなと思いましたね。60回ローンで毎日カップラーメンを食べ続けるような生活を覚悟して購入しましたから。でも後戻りなんてできませんからどうしようかと困りましたね。それで世の中の先輩方も見てみたら純粋にポルシェの走りを愉しんでいることに気づきました。それからモテるとか関係なく、上手く速く走れるようにと気持ちが変わりました。
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Q. ポルシェが走って愉しいというのは?

普通のクルマであればまっすぐに走るのに、ポルシェというクルマはクルマの調子が良くなかったり、自分の運転が上手くなかったりすると、まっすぐ走ることさえ緊張感を強いられるんです。古い年代のポルシェほどそうなんです。それを上手く乗りこなすにはどうしたらいいんだろうと考えるんです。当時、僕にクルマの運転を教えてくれた人に「左手だけでステアリングを操作して右手は使わない。それを1週間続けてみろ」って言われてね。最初はずっと筋肉痛でしたよ。でもそうすることによって左ハンドルに慣れるし、右手でシフトレバーを操作することにも慣れていきました。昔のポルシェは、ミッションが弱いというか繊細なところがあったので、それを丁寧に扱えるようになるには左手だけでしっかりとステアリングを握っていられることが大事でした。今でもマニュアル車に慣れていない人が運転するとシフトチェンジでステアリング操作が片手になった瞬間にクルマがふらついたりするんですよね。そうするとそこで挙動がおかしくなる。普段街を走っている分には中々気がつかないこともサーキットを走るとそのほんのわずかなズレがものすごく大きく影響するようになるんです。富士スピードウェイの直線を260-270kmで走っているときにふらつくと大きくタイムロスしてしまうんです。公道を走っているときには気づかないことにサーキットを走るとたくさん気づくんです。サーキットだから敢えて、クルマがスピンするような曲がり方をしてみるとクルマがどうやって曲がっているのか、どうなったらスピンしてしまうのかというのがよくわかるようになるんです。ポルシェ911の場合、リアエンジンだからリアが重くてフロントが軽い。ブレーキングをしっかりしないとアンダーステアになって曲がれない。じゃあなんでアンダーステアになったのかを考えながら走るときちんとニュートラルステアで曲がれるようになる。そういう経験を積み重ねていくうちに「クルマの運転ってなんて奥が深くて難しいんだろう」って思うようになるし、それをひとつひとつクリアしていくことが面白いってどんどんハマッていくんですよ。
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ポルシェは、今もリアエンジンドライブのRRというクルマを今も生産し続けています。エンジンに関しては1997年まで空冷だったんですが、排ガスや環境問題などの影響で1998年から水冷を採用しています。4輪駆動を採用したカレラ4というモデルもあるけど、RRという基本姿勢は崩さずに今も多くのモデルをラインアップしている。元々スポーツカーでありGTカーであるというのがポルシェ911なんです。FFやFRにはないRRの個性というのがあって、アンダーステアなのかオーバーステアなのかがものすごくわかりやすい。よく「ポルシェ911って運転するのが難しい」とか「変な挙動するでしょう」とか言われるんですけど、それは間違いです。クルマがどう動いているのか、どういう状態にあるのかがものすごくドライバーに伝わりやすくわかりやすいクルマというのが正しい理解なんです。運転に質感があって、挙動がわかりやすくて、クルマを走らせる上での愉しさというのがいつの時代のポルシェ911にもあるんですよ。最近のクルマは電子制御が多くなったことで便利にはなったけど、挙動はわかりにくくなっている。ポルシェにも電子制御はありますが、国産車などに比べたらアナログなクルマですよ。ポルシェのデジタルは「ドライバーに任せたデジタル」。RRにアナログでしょ。どこまでいっても「もっと腕を鍛えろ、ドライバーがなんとかしろ」っていうクルマなんです。
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Q. 日比野さんがクルマに求めるものは?

それはやっぱり格好よさであり、走っていて楽しいこと。それはスピードだけじゃないんですよ。「乗っているだけでワクワクして楽しい気分になれるクルマ」がいいですよね。その次に快適に乗れることとか、荷物がたくさん積めることとか出てくるのかもしれないですけどね。まずは乗った瞬間にしっかりくるクルマ。乗った瞬間に自分のドライビングポジションがとれて、手足のように操れる感覚が大事ですね。実は僕ポルシェ以外にベンツも大好きなんです。以前、ポルシェが作ったベンツがあるっていうので興味を持った時がありました。それが124-500(メルセデスベンツ500E(W124))というんですけど、それを乗っていた周囲の人たちってポルシェはメチャメチャ改造していたのにベンツはノーマルで乗っていたんですよ。すごく不思議で興味持って、それからそのクルマも好きになったんですけど、すごい見晴らしがいいんですよね。見晴らしが良くて乗りやすくて、だけどその後のベンツっていうのはすごく乗りづらく感じたんですよ。なんか前がどこまで鼻先があるのかわかりづらいし、後ろもトランクがどこまであるのかわかりにくいような感じで、ポジションはうまくとれるんだけど、そこから先がちぐはぐだなっていう印象でした。
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ポジションはね、僕も運転を勉強する上ですごく勉強になったんですけど、いちばん大事なんですよね。ハンドルを持つ手が伸び切ってしまうと、とっさの動きが遅れるんですよ。だからちょっと余裕を持たせるくらいにしておいて、腰を凄く深く座って、無理のないところでブレーキを踏める。アクセルを踏める。そしてクラッチも踏める。それであまり窮屈にならない。ハンドルも自然なところにくる。やっぱりポジションを一番重要視していますね。ポジションを重視する上で大切なのがシートなんです。自分のポルシェ911は、純正シートがレカロ製です。「レカロ」ってかいたフルバケのシートだったんで、レカロだからいいだろうと思っていました。実際すごくいいんですけど、でもヘルメットをかぶるとどうしても猫背になっちゃうんですよね。これは視界が悪いなあ。だめじゃんこれと思って、だけどレカロって書いてある。結局、純粋なオリジナルレカロではないというか名前だけレカロなんだと思います。それから自分にあった適正なポジションをとろうと思うと、どれがいいだろうと探したんです。今はオリジナルレカロというか、レカロのカタログにラインアップされているSP-GTIIをつけていますけど、あれは本当にサーキットを走るためのシートですね。しかもレーシングスーツを着た際にはすべらない。不思議なモノでジーパンとか着た際には少し滑る感じなんですよね。生地の関係ですよね。
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僕のポルシェ911 GT3は、ほとんどサーキットの往復とサーキットを走るだけですからね。以前レーシングスーツに着替えるまでもない走行会に行って、着替えなかったんですね。そうしたらサーキットを走るとすごく滑って「何これ!」と思ったんです。レーシングスーツを着ていると滑らないんですよ。ものすごく考えてあるんだなと思いました。それでより一層レカロが好きになっちゃいましたけどね。ポルシェのオーナーは40-50代が多いから、メタボリックな人も多いんですよ。だからレーシングスーツもみんなオーダーですよ(笑)。既製品のダボダボのモノとかキチキチのモノとか格好悪いからみんなオーダーで作るっていう人が多いんですよ。きっとレカロの場合は、20代のすらっとした体型の人用のものをつくってると思うんですよ(笑)。でもちょっと待ってと . . . 。40-50代とこれだけメタボリックが騒がれててね、ちょっとデブ用のがあってもいいんじゃないかなと僕の中にはあるんですけどね。それに一概には言えないんだけど、こうやってお尻と腰をいれていっても後ろにちょっと隙間が出来ちゃったりとかね。グッと入ってより一層カチッとしめるにはどうしたらいいかとかね、いいだすとキリがなくなるんです。でもそれぐらいシートがクルマのポジションを決めるのに大切なんだということなんですよ。今よりもっと運転が上手くなりたい。もっと良いタイムで走りたいと思うと、クルマの性能ではなく自分なんですよ。だからまずはポジションからなんです。ポルシェオーナーは、レカロ以外に考えたこともないでしょうし、自分の理想とするポジションを求めてレカロを選ぶんです。

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Q. 日比野さんが最初にポルシェを購入したのは?

19歳のときにポルシェ914を購入しました。俗に言うワーゲンポルシェというモデルで、50万円という値段に飛びつきました。でも3日間ぐらいしかまともに走ってくれなかったです(笑)。すぐに修理工場に持っていきましたが中がサビだらけでどうにもならない、ただのクズだよって言われました。それから3ヶ月ぐらいは乗りましたけどね . . . 。 それから4年ぐらい経って23歳のときにバブルも終わり古い型式のポルシェであれば200万ほどで購入できる時代がやってきました。しばらく国産車を乗り継いでいましたが総資金17万円でローンを組んで911を購入しました。当時の印象としては、ポルシェ乗る=危ない人みたいなところもあったようで実家の親にはそんなクルマに乗るなってよく言われました(笑)。それから自分の名義で購入したポルシェの台数は8台になります。お金なんてなくてもこうしてできるんですよ。自慢じゃないですけど60回ローン以外で購入したことなんてないですから(笑)。最初が914。次が78年の911SCS。84年の911カレラ。それを潰してしまったのでもう一度84年の911カレラ。それから92年の996RS。並行して91年の964カレラII (カブリオレ)。89年のスピードスター。今乗っている00年の911GT3。
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Q. ポルシェのお店は一般的に行きにくいと思いますか?

やっぱり敷居は高いように思います。でもポルシェのお店をしている方たちというのはポルシェが好きだからやっています。本当に好きで素直に相談してみると、みんなわかりやすくいろいろと教えてくれますよ。それでも他の高級車やスーパーカーとは違って、怖さはないと思います。ブランドショップの敷居をまたぐような印象です。言ってみればバイク屋さんだと思ってもらえればいいと思います。趣味のお店。趣味が高じてポルシェのお店をもっている。自分も同じです。ポルシェが好きで趣味が高じて雑誌を作っています。ポルシェが好きでポルシェの本が作りたくて . . .ですよ。最初は、「LEFT」という輸入車の地方専門誌を作りました。そこでポルシェの特集をやってみたんです。内容は「事故車の見分け方(?)」みたいな内容でした。当時にはなかったバイヤーズガイドみたいなものを世の中に出してみたかったんです。そしたら地方誌にも関わらず全国からこの特集記事を掲載した本が欲しいという問い合わせをいただいたんです。これでポルシェの専門誌を作ったら必ずおもしろいと思いました。それで勤めていた出版社ではなく自分で作ろうとはじめました。
それからいろんな人に声を掛けさしてもらい、たくさんの方の賛同を得て「THE911PORSCHE&MAGAZINE」という本を作刊することができたんです。もう今から20年ぐらい前のことになりますね。1号~25号まで今の911DAYSで副編集長をしている関と2人で作りました。
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そこからいろいろな時代を経て、10年ほど前に今の「911DAYS」という新たなポルシェ専門誌を作らせてもらえるようになりました。当時からTHE911PORSCHE&MAGAZINEを一緒に作っていたスタッフがほぼそのままこの本を作っています。当時の反響はすごかったですよ。当時世の中にそういう雑誌はまったくなかったですから。今みたいに専門誌が溢れている時代と全く違いましたから。忘れもしないですけど、ポルシェの専門誌を作りたいと広告代理店や大手の出版会社にも企画を持ち込んだりしましたが、正直「鼻で笑われましたよ」。それから必死になりましたね。三河武士の根性ですよ(笑)。当時の自分は怖いもの知らずでしたよね。ただポルシェが好きでポルシェの専門誌を作りたいって純粋にそれだけの気持ちで動いていました。だから当時はよくあった正規輸入とか並行輸入とか、いろんなしがらみを全く気にせず、とにかくポルシェ専門誌というものや、そこで記事にしていきたい内容などに賛同していただける人を探しながらスポンサーを集めていましたね。いろんな人に可愛がられて、叩かれるところは叩かれての繰り返しでした。
それからしばらくして専門誌というのが全国区でも出版されるようになりましたね。ひょっとしたらメルセデスとかの方がビジネスとしては良かったのかもしれないですね。でも好きになったのがポルシェで、ポルシェの専門誌を作りたかったのでしょうがないですよね。
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Q. 雑誌づくりで目指しているものはありますか?

等身大で . . . いや少し背伸びしたものですかね。自分の給料で言えば未だにポルシェを乗れる身分ではないのかもしれないですが、、それでも何とか1台所有していて、どこか修理が必要になると修理代が貯まるまでじっと待ってとかをしながらです。当時は、ポルシェのオイル交換とか何かをいじるということなどについてヴェールに包まれたところがあったと思います。触ってはいけない、手を入れてはいけない、メーカーが販売するチューニングパーツしかつけてはいけないとか、いろいろとセオリーがあったんですよ。それでも当時はやってみよう、できるよって思いながら勉強しました。「実際に自分でやってみよう」というのを最初はたくさん記事として扱っていましたね。今でこそ、その結果として「やっぱり専門店の知識ある人にお願いするのが一番安くて、一番早く確実に直る」というのがわかりましたけどね(笑)。それでも「ポルシェってけして夢のまた夢みたいなクルマではないですよ」ということを伝えたかったし、今もそうですね。ポルシェって本当に壊れないんですよ(自分で壊すことはあっても . . . )。ポルシェにきちんと乗り出して15年以上になりますが、自分でぶつけたり、サーキットで速く走ろうとしてギアをけずったりしたことはあっても、普通に走っていて途中で止まったり、突然どこか調子が悪くなったりというのはないですから。等身大のクルマとしてポルシェを見てもらいたい。その基本的な雑誌づくりの方向性は今も変わっていないですね。
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Q. 昔に比べるとポルシェの愉しみ方って変わりましたか?

以前は国内でポルシェのアフターパーツというととても限られていましたが、今は国産のメーカーもたくさん出していますよね。レカロにしても昔はSP-Gというのが絶対でしたよね。自分の体型から考えてもドイツのSP-Gというのがやっぱり好きでした。でも日本人の体型に合わせたSP-GNがあったり、僕自身も勉強不足でしたけどRS-GやTS-Gなんていうモデルもある。以前、911DAYSでレカロのフルバケットシートをサーキットで乗り比べして記事にしたことがあります。SP-GTII、RS-G、そしてTS-Gの3つのフルバケットシート。このときの僕の頭にあったイメージが大きく変わりました。レカロシートをレカロの純正レールで装着するとシートの高さが高くなるってずっと思い込んでいたんです。だから取材のとき、レカロ純正レールの最も低いポジションの穴位置で取り付けたんです。そしたら低すぎて一番上の穴位置でも良いくらいだったんです。それがものすごくびっくりしました。レカロ純正レールでも当然ながら取り付け車両によってもポジションが変わるし、場合によっては純正シートよりも低く設定できるものもある。その奥深さは全く頭になかったんです。ものすごく勉強になりました。それにRS-GやTS-Gについては、何よりもその取り付け位置の低さに驚かされました。911GT3 に装着したところ、SP-Gよりも3~4センチほど低くなり(純正シートよりも10cm程度は低い)、
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あまりに低すぎて視界が悪くなるほどでした(笑)。もちろん調整できるようになっていて適正位置まで容易にもっていけます。それからポジションでとても良い印象だったのがTS-Gでした。背もたれ全体の角度が倒れ気味で、しっかりサポートされているのにSP-Gのようなタイトさがない。それが却って良いとも言える。特に空冷の911にはステアリングのテレスコがないため足を基準に前後位置を調整するとどうしても腕が窮屈になります。TS-Gのように肩が沈み込んでステアリングと腕の距離感に少し余裕ができるのはとてもありがたいです。でもそれは自分自身の体型や好みのポジションなどもあります。以前とは比較にならないほど、いろんなことが愉しめるようになっていますよね。やっぱりポルシェにレカロは合う。ポルシェと言えばレカロですよ。
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Q. 日比野さんにとってポルシェとは?

くさいですけど、人生そのものですね。ポルシェに出会って、ポルシェに魅せられて、人生が変わっちゃいましたから . . . 。