GENROQ 編集長 野口 優 氏

ce028<2011.11.21>
遊び心は大人にも必要。

GENROQ 編集長 野口 優 氏

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Q. 今のクルマってどうですか?愉しいですか?

先日、フェラーリの458イタリアというクルマをイタリア本国にて試乗してきました。サーキットでも試乗しました。いわゆるスーパースポーツカーと呼ばれるようなクルマなんで、絶対的なスピードというのはもちろんものすごく速い。ただ気持ちよく走るということに速度は比例しないと思います。自分が満足すればいい。おもしろいクルマって60kmでもおもしろい。愉しめると思います。フェラーリの場合、確かに60キロぐらいだと不満は残りますが、でもたとえ200kmぐらいであってもフェラーリにしてみればクルマの性能と実際の速度域が重なるというか一体感が得られるのがたまたまその速度域であるというだけのことです。最近のフェラーリに凄いなと思うところがあって、低速域でもすごく運転しやすく、乗り心地も良く、しかも愉しいと思わせるところが上手い。
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一方で、例えばフォルクスワーゲンのゴルフとかってフェラーリと比較しておもしろくないかというと驚くほどおもしろい。
おもしろいとは何かというと「路面との対話」にあります。ステアリングを1ミリ切ってグリップしているっていう意識が得られると、人はおもしろいと感じるんだと思います。1ミリなのか、1センチなのか、ハンドルを操作しているだけで路面の印象がないというのではダメなように思います。電子制御で誘導したり、安全装置の介入の仕方を調整したり、燃料噴射を制御したり、クルマの技術はどんどん進化していきますが、コントロールされているという意識を感じないようにクルマを仕上げていくのがものすごく上手い。特にフォルクスワーゲンはここが上手い。ゴルフのようなクルマも、フェラーリやポルシェ911ターボのようなクルマも、すべて共通していているのはおもしろいということ。乗っていて快適だということ。この快適性能というのが求められるのは、最近流行りのエコカーあるいはスーパースポーツカーであっても同じだと思います。
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Q. 野口さんのいう「快適性能」ってどんなものでしょうか?

快適性能をひと言で表現するのはとても難しいですね。乗り心地もそうですし、あと振動もそうですね。シートのできというのもそうです。お世辞じゃなく僕がいいと思う輸入車って大抵がレカロのシートなんです(笑)。乗り心地がいいと単純に言っても、どういうのがいいのか。例えばものすごくハイテクでエアサスなんかもやっていて、全然揺れたりしない。ものすごく快適なんですけど、何となく宙に浮いているような感じがする。タイヤと路面の間にずっと膜が張られているような感じ。これってベルトコンベアで動いているような、乗せられているみたいな印象を受けます。一方で15年以上も前のクルマですが、ダンパーがこうやって動いているというのがわかるのがあります。だけど車体は常にまっすぐで、路面の接地もしっかりとしているんで、常にダイレクト間があるんです。振動は薄い、でも音は凄い。つまり路面とのダイレクト感、ブレーキ操作やステアリング操作もダイレクト感がとても大切だと思います。
乗り心地が良くてダイレクト感があると、ステアリングをどのぐらい切ったらスムーズに動くかということを人ってすごく考えるようになるんですね。でも単純にクルマの性能が良すぎるだけで、おもしろいとは思えないクルマだとどう切ってもスムーズに曲がるんですよ。それって愉しいかというと違うように思います。
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GTIでもTSIでも、ポロであっても、けしてスペックではなくて、実際に乗ってみて一体感が得られるようなクルマは世の中にたくさんあるんです。基本性能の高いクルマって、「とりあえずシートを替えてみようかな」、「ダンパーを替えてみようかな」といった愉しみがどんどん膨らんでいくと思うんです。クルマってライフスタイルの中で愉しめる、あるいは演出してくれるものなんで、そこをみんな忘れないで欲しいですね。僕は、こういう立場でいろいろなクルマに乗せていただいて、愉しいクルマってたくさんあるって分かるんです。アフターパーツのメーカーも同じです。真面目にやっていくところは必ず生き残っていく。レカロもそうですよね。ちゃんとした歴史があって、シートとしての機能、ホールド性もそうですが背骨に対するアプローチもそうですし、他のメーカーさんが同じようにできているかっていうと . . . 。シートと言えばレカロしかないみたいな状況って当然なんですよね。間違ったものを流行りとして認めさせるようなのが僕はもっともナンセンスだと思います。僕個人としては、クルマのあり方っていうのをものすごく提案していきたい。とにかくクルマって愉しいものなんだって。愉しいクルマはまだまだ世の中にたくさんあるんでね。愉しいクルマを探すために、冷やかしでもいいんで販売店に足を運んでいろいろなクルマに乗ってみるとおもしろいって思うクルマがたくさんあります。自分のライフスタイル。自分が今何を求めているのか、それに合うクルマが必ずあります。
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Q. 野口さんがクルマに興味を持つようになったきっかけって何かありますか?

1970年代のスーパーカーブームでしたね(スーパーカーブームは、当時の週刊ジャンプで連載されていた「サーキットの狼」が火付け役となったとも言われています)。その当時の思いを今もずっと引きずっていると思います。先進的なクルマ。スポーツカーというものに子供ながらゾクゾクしましたね。単純にカッコいい。カッコいい以外は何も思わなかったですね。18歳で免許を取るとすぐにMR2が発売され、ミッドシップという理由だけで購入しました。ダンパーとかを自分で交換しながら夢中で峠や首都高を走るようになりましたね。箱根や伊豆まで走ったり、ひたすら走っていました。でも半年で廃車にしてしまったので、その半年後にまた懲りずに買いなおしました(笑)。あれは横転しやすいクルマで有名だったんですよ。重量のバランスとダンパーがよくなかったのかな。コーナーリングのインはいいんですけど、抜けるときに「おつり」がくるんですよ。そのスピードが半端じゃなく、まったく制御できないぐらい。それで横転して廃車ですよ。当時で500万ぐらいでしたから、全部フルローンですよ。やっぱり好きだから他に選択肢がなかったんです。無理して買って、クルマのために働いてというのが19~20歳ごろでしたね。そういう経験からクルマ雑誌の仕事に行きたいと思ったんですね。たくさんのクルマに乗りたいし、すごいクルマがたくさんあるし、他の世界を知りたいって思いました。クルマ雑誌を読むと夢膨らむ時代だったんですよ。だからこそ今のように若い人のクルマに対する興味が少ないと言われるとクルマ雑誌を創る我々にも責任があるんだともの凄く反省しますね。今は、安くても愉しむことのできるクルマがたくさんあるわけで、決して当時と今では時代が違うなんていうだけじゃないなって思います。
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Q. 野口さん自身、他にどんなクルマで愉しんできましたか?

クルマのない時期っていうのが結構あるんですよ。MR2を2台乗ったあと長くクルマを持っていなかったですね。それは僕が人生に迷っていた時期なんです。26歳ぐらいまで実は本気でミュージシャンを目指していました。事務所にもきちんと所属していました。でも中々音楽だけで食っていくというところまではいかなかったので、クルマは売ってしまいました。クルマがあるとつい夢中になって走ってしまうのでガソリン代が払えないですから(笑)。27歳の時にこの業界に入り、最初は給料も安くしばらくはクルマなんてとても買えませんでした。でもあるとき、まったくの衝動買いでケータハムのスーパーセブンを購入しました。今もそうですけど当時から僕は雨男でした。乗ろうと思うと必ず雨になった(笑)。フロントエンジンで車輪は剥き出し。屋根もエアコンもない。本当にただ走るだけ。走れば走ったでガソリンで真っ黒になって。ものすごいストイックなんですよね。それでももの凄く愉しかったですね。
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その後、FIATのパンダを買いました。毎日乗れるクルマが欲しいと思ってたときにパンダが最後だって言われたからです。パンダを購入した理由は、普通車なのにスポーツカーみたいに愉しかったからです。普通のエンジンに普通のクルマ。でも乗るとスポーツカーみたいにすごく面白かった。こういうクルマがあるからイタリア人はみんな運転が上手いんだって思いましたね。それを2年で5万キロぐらい乗って、それからTVRキミーラを購入。ものすごくトリッキーなクルマでアクセル踏むと普通にドリフトしちゃうみたいな(笑)。そのときはすでにGENROQの担当をしていたんですが、長期レポートで最新のTVRを所有。さらにマセラッティのスパイダー。仕事とプライベートで4台ぐらいを同時に所有していましたね。それからAMGの109を購入。購入して3日目で故障。修理で持ち込んだのがチューニングショップ。おもしろいからチューニングしようっていう話になり、3.2Lを3.6Lエンジンに。200馬力を320馬力に。足回りも全部交換して、軽量化して、そうしていくうちにTVRよりもおもしろいクルマになってハマりました。 今はマセラッティのクワトロポルテに乗っています。
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Q. 野口さんにとってのクルマとは?

クルマとは愉しませてくれるもの。僕の人生に欠かせない存在です。クルマがないと気が狂いますね。僕はジェットコースターが大好きなんで、きっとGが好きなんですね。バンクを初めて走ったときには、こんなGがあるんだって感動しました。ああゆうのが大好きなんですね。ただ、そんなにスピードを出して走るまでいかなくてもなんか動いていることが大事なんです。自分で操作しているということが大好きですね。だから電車とかも運転してみたい(笑)。ある意味、そうやって童心に返れるところがあるし、いつまでもやんちゃな気持ちでいられる。若くいられるのもそういうのがあるのかなと思う。常識的な大人になろうとするだけじゃなくて、遊び心も大人には絶対に必要だと思う。そういうのを満たしてくれるのがクルマなんだと思います。