新井選手&奴田原選手(2014)

int037<2014.09.30>
ラリーの魅力を語る
ラリードライバー 新井選手&奴田原選手
Interview by Manabu Hibino & Tomonori Seki
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Q.ラリーカーは市販車と大きく異なる?

奴田原選手(以下、奴) 我々が乗るNカテゴリーのラリーカーは、市販車に結構近いです。エンジンもノーマルのままで、バランス取りもしてはいけないですからね。それどころか、リストリクターが付けられるので、市販車よりパワーがないぐらいです。その分、トルクは出ていますけどね。コンピューターはMoTeCを使っていいんで、そこはチームのノウハウが活きてくるところ。脚のロワアームなんかもノーマルのままです。ダンパーに関しては市販品がベースですけど、減衰力はチームのノウハウがあって、オーダーしています。だから、ロワアームも2戦に1回は替えているし、ドライブシャフトも市販品ですから、車両によってはかなり小まめに替えていると思います。
新井選手(以下、新) その一方で、ラリー北海道のアジアパシフィックラリーに出ていたS200規定のSkodaのようなワークスマシンもあります。あの車両は、カスタマースペックだとkmでコンマ5秒ぐらい遅いんですけど、ワークススペックだとkmでコンマ5秒ぐらい速い。Jan KopeckyはSkodaのワークスドライバーで、ヨーロッパ選手権に行くとターマックでkm3秒、グラベルだとkm1秒半ぐらい速い。だから、10km走ると30秒とか15秒とか速いわけです。我々が乗っているN車とは全然違いますね。ただ、S2000車は6速で8500回転までしか回さないので、最高速が170km/hしか出ない。私のImprezaであれば、北海道みたいな長いストレートだと、200km/hぐらい出るので、その速度で巡航できるところはなんとかタイムを縮めることができる。でも、ギャップなんかがあるところは、向こうは全開でいけるけど、こちらは抑えなくちゃいけない。もちろん、コーナーでは全然歯が立たないし。向こうはFFの1.5リッターか1.6リッターの日産ノートとかキューブに、2リッターのチューンドNAエンジンを積んでいるわけですから。だいたい300ps出ていて、なおかつ6速シーケンシャル。ボディは1900㎜ぐらいまで拡幅させてある。まるっきりレーシングカー。内部も作り替えちゃっていますから。
 レースで言うS耐車両とGT500車両の違い。
 そう。外観はノーマルとは違いますけど、中身もまったく違って、完全なラリー専用車。

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Q.ラリーカーと他のレースカーではどうですか?

 スーパー耐久に参戦したことがありますけど、S耐車両はほとんどラリーカーと一緒のイメージですよ。ラリーにもターマック(舗装路)がありますから。特にNカテゴリーの車両なら、そんなに違いはないです。
 2013年、WTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)にシボレーのワークスで参戦したんですけど、クルマのセッティングがWRCカーのターマック仕様とそっくりなんです。車高が少し違うぐらいで。乗って全然違和感がない。いつものラリー車のように普通に乗れちゃう。
 突き詰めていけば、同じですね。ラリーカーはターマックのコーナーでドリフトして走っていますけど、あれはレギュレーションの関係から、ただタイヤのグリップが低いのと路面μが低いだけなんで。タイヤのグリップを上げて、なおかつタイムを出そうとしたら、レースのような走りになります。レースはレコードラインをタイトに攻めるわけですけど、ラリーでそれをしてしまうと、その先で何かあったときに飛び出すしかない。そのために、コーナーに入るときにはあらゆることに対処できるように、あえてリアを滑らせていくわけです。
 レースの場合は、タイヤの限界ギリギリを使ってやるじゃないですか。タイヤとクルマの性能が、ドライバーの腕よりも重要というかね。レースでは、エンジニアとかメカニックとかのクルマを作っている方が面白いでしょうね。クルマをイジると速くなるから。ラリーの場合って、たぶん10ps変わったって、たぶんタイムなんか変わんないですよ。ドライバー7割、クルマ3割ぐらい。それがレースでは逆でしょ。

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Q.それだけにシートの選択にもこだわる?

 いつも言っていることですが、ラリーの場合、ひとりのドライバーが長い距離を走ります。クルマの挙動も大きいですし、走りながら感覚的に、かつ理論的にクルマをコントロールし続けますから、RECAROのように「疲れない。運転に集中できる。クルマの挙動が正確に感じられる」というのはものすごく重要です。RECAROのシートは、なんであんなに疲れないだでしょうね?レースも普段の街乗りも、本当に他のシートでは全くダメですね。
 ラリーの場合、ドライバーの意思をかなり尊重してもらえると思います。ADVANチームでも海外でもそうですね。ドライバーがシートを選びます。シートからクルマの動きを感じるというのは重要ですから、シートはRECAROしかないですね。ホールド性はもちろん、安全性、そして身体への負担が少ないという点でもRECAROですよね。私は、ラリーを25年以上もやってきましたが、ドライバーの職業病とも言える腰痛などは幸い持っていません。これもRECAROシートを長年使ってきた恩恵だと思います。
—– 逆に言うと、ラリーの世界で、ラリーのドライバーに選ばれるということがRECAROにとっても重要なんですね。ドライバーの意思で、純粋にシートの性能が求められるわけですから . . . 。
 ラリーはドライバーの要素が、かなり大きいんですよ。F1見てもそうだけど、サーキットならいいクルマには絶対に適わない。ラリーでも、たしかにいいクルマに適わない場合もあるけど、ドライバーが入り込む要素がかなりあります。だから、ラリーはドライバーの方が面白い。
 たしかに、走らせ方はサーキットと同じなんだけど、日本のレーシングドライバーの走らせ方とは少し違うみたいですね。彼らは、WTCCカーになかなか乗れないから。オーバーステア過ぎて、こんなのはレーシングカーじゃないよって。WTCCのセッティングは日本のクルマとまったく違いますからね。常にクルマを滑らせて走らせるようなセッティングなんで。

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Q.もっと本能に近い感じのクルマになっている?

 ああいったクルマに乗っている連中に、日本のレーシングドライバーは勝てないと思う。タイヤやクルマだけに頼った運転ではなく、ちゃんとクルマを動かしてやらないと。
――理論から入っていく運転と本能で走らせる運転の違い。
 面白いのは、海外でレースをやっている連中は、ラリーも結構やるんです。WRCもいっぱい出てくる。DTMでアウディに乗っているチャンピオンが、ランサーでスウェーデンのWRCに出ていて、ずっと私とバトルになったんです。「なんだこのレーシングドライバー速いな」って。向こうでは、サーキットで速いドライバーはラリーでも速い。
――その意味でも、向こうのレースカーとターマックのラリーカーは、よく似ているんでしょうね。
 WRCとWTCCのクルマはそっくり。ハンドルを切ってスムーズに曲がって、リアは多少出てもいいや、みたいなセッティングね。オーバーセッティングだし、ロールも結構させますからね。スプリングも海外ラリーで使うぐらいのものですから。スプリングレートも7kgf/㎜、8gf/㎜ぐらい。14年からはボディが拡幅されてもう少し硬くなっているんですけど。だから、ドリフトしてもブツけられても、スピンしたりせずに行ける。日本のレースの場合は、タイヤのグリップの中だけでやるから。スリップアングルがどうのなんて使い方なんかも全然しないでしょうし。
 初めて走るようなコースだと、そのタイヤがコースに合っているか分からないんです。何年もやっているところだと、路面がアグレッシブ(凹凸が激しく摩耗度も高い)だとかスムーズだとか分かるんですけど。あと気温もね。そうすると、いろんな要素が絡んで来て、難しいんですよね。
 ラリータイヤはF1のようなピンポイントなものではなく、幅広い状況で使える許容範囲の広いものでないとダメなんです。朝早い路面温度が低いときと昼では、全然違いますからね。ラリーは順番に走るから、出走する順番によっても路面温度が変わってくる。
 妻籠みたいなところでは、標高が高いから晴れていても路面温度は上がらないし、雪が降るような地域では、ところどころ路面が掘れて荒れていたりする。走り出したら、タイヤのいいところがなくなっちゃったということも起きますからね。サービスでタイヤを交換すればいいんですけど、レギュレーションで本数が規制されていますから。
 ターマックだと10本とかあるんです。それで、2日間持たせないといけない。何種類も仕様を変えるとかできないんです。
 ある意味、やってみないと分からないところがあります。

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Q.グラベル(未舗装路)だとタイヤのグリップレベルはどうなりますか?

 当然、グリップレベルはうんと低くなりますけど、6パターンから選べますね。グラベルタイヤは15インチで外径650という規制があるので、サスペンションももっと柔らかくします。脚を大きく動かすイメージ。雨の時のグラベルタイヤは、基本的にほとんど変えないですけど、何種類かあることはありますね。国内はダメですけど、海外はタイヤカットして溝を増やしてもいいですからね。ターマックの場合は、サーキットのように、レインタイヤを履きます。
―― 同じラリーでも、ターマックとグラベルで走らせ方が違うんですか?
 基本的には同じですけど、言ってみれば、テニスの軟式と硬式ぐらいの差はありますね。だから、やってて面白いですよ。いろんな路面が走れるんで。日本ではほとんどないけど、海外ならスノーもありますから。
―― スノーはグラベルよりも、もう一段グリップレベルが低いわけですよね。
 国内はダメですけど、海外はスパイクタイヤですから。細いタイヤにピンがいっぱい付いているヤツね。タイヤ径は15だけでなく、16インチもありますね。16が主流です。
―― グラベルを走り、一部区間ターマックも走らなければならないステージがありますよね。
 そういう場合は、グラベルタイヤでグリップレベルが低いですから、コーナーのずいぶん前から滑らせていきます。
 ガードレールがあるとかないとかにも影響されるんですけど、ないところでは縁まで使って走りますね。だから、縁が使えるかどうかは、レッキのときに全部確認するんです。
 一か八かで行っているわけではないですからね。
 ちゃんとラインを通って行くんですけど、そのときにちょっとラインから外れても道から落っこちないようなマージンは取っているんです。ラリー北海道で、周りが熊笹みたいなところは全開で行っちゃいますね。あんな所の中には何もないやって思いますから(笑)。
―― 頭のネジが……(笑)。
 いろんな道路状況を考えるんですよ。例えば、この辺は雪が多くて除雪が入るとしたら、両側に石があったら除雪ができないから、絶対石はないだろうとかね。
 地形とかいろんな状況を見て、判断する。
 季節だったりとかその国の情勢だとかね。国によって、道の作り方はまったく違うからね。土の道はほとんど一緒ですけど、舗装道路なんて国によってまったく異なる。いろんなことを考えながら走らないといけないんです。
―― 感覚を研ぎ澄ませていかないとダメですね。
 第6感が働かない人は、ラリー車を走らせられないですよ。コーナーの先に動物がいるかもしれない、みたいなことはありますからね。
 結構動物はいますよ(笑)。

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Q.正直走るのが怖くなったりしませんか。

 怖くはないですよ。たまには怖い思いはしますけど、基本的には自分でコントロールできる範囲内でやってるつもりなんで。ただ、エスケープゾーンがないので、あっと思ったときはぶつかるしかないですけどね。あっぶねェということはしょっちゅうありますね(笑)。
 レースをやると、ラリーは怖いんですよ。レースをやっていないと、ラリーはこんなもんかなみたいなところはあります(笑)。チェコなんかではものすごく走ることが危ないんですよ。左右両側が石のところを200km/hで走るわけです。Kopeckyと話していたら、彼はアドレナリンが出て気持ちがアグレッシブになっているから行けるんだって言うんですよ。
―― ある意味、ブッ飛んでいますね。
 そうそう、ある意味ね。危ないからどうしようかな、と思っていると走れないですよね。だって、前が見えないどうなっているか分からない道を200km/hで飛んでいくこと自体普通じゃないでしょ。その状態に身体をしないと、アクセルを踏んでいけないですよ。コドライバーがウソ言っているかどうか分かんないし(笑)。
 (笑)。ただ、コドライバーがいないと今のスピードでは絶対に走れませんね。信頼関係がないと走れないですから。ペースノートがあるんですけど、ラリーは練習走行ができないので、事前にレッキをしてペースノートを作っているんです。それが間違えていることもある。さすがに、最近はコーナーの左と右を間違えるとかはないですけど。
―― でも、前を見ていればそれぐらいは分かるような。
 ごまかされるようなコーナーもあるんですよ。右に見えるんだけど、実は左に曲がっているとかね。緩い右コーナーのように見えて、実は大きく左に回り込んでいるとか。だから、目で見ては走れないんです。ちゃんとナビの話を聞いて、先をイメージしながら走って行かないといけない。それに、見えているところを急に言われても間に合わないんで、2つとか3つ手前で言ってもらう。それをイメージしてコントロールしながらライン取りをして行くわけです。
―― コドライバーの読み上げるペースノートを聞きつつ、2つ3つ前のコーナーをイメージしながら走っていても、コースアウトすることはある?
 ありますね。スピードを落としきれなかったとか。ただ、ペースノートは自分の言葉ですからね。レッキのときに、自分が言ったことをコドライバーが書き留めていく。で、本番のときに、それを正確にいいタイミングで読み上げる。
―― ドライバーとの呼吸が合っていないとダメです。
 そう。ドライバーが欲しいタイミングでそれを言えるコドライバーが一番いいですね。
Q.ペースノートには何が書かれているんですか?
 レッキは2回できるんですけど、国内だと60km/hの制限速度までしか出せないので、その状態で作っていくわけです。全コースをそのスピード内で走りながら、ドライバーが状況をコドライバーに口頭で伝えていく。ストレートの長さだとかコーナーの種類、角度だとか。角度はだいたい0から7までの数字で表すんです。0がヘアピンで、ハンドブレーキを引かないと回り込めないようなコーナー。7は5速全開で踏み切れるコーナーという感じですね。それに加えて回り込み具合だとか、コーナーの形だとかを記号で記入していくわけです。
―― どういう風に言葉にするんですか?
 レフト3(スリー)とか。それに加えて、少し曲がっている場合はショートとか。長いのはロング。もっと長いのはロングロングとか、ベリーロングとか。アップダウンもあって、オーバークレスト、ダウンリッチとかね。これは僕流だけど、だいたいみんな似ていますよね。ドライバーの好みで少し違うだけ。
 そう。大きくは違わないね。
―― コドライバーは前を見ながら、ペースノートを見ていたんでは間に合わない。
 もちろん。コドライバーは前を見ないで、クルマの動きを感じながら感覚で読み上げていくわけです。
―― 次々と読み上げられる言葉をイメージして全開で走る、と。もはや神業ですね。
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 でも、ペースノートの読み上げを噛むことがあるんですよ(笑)。そうすると、どっちだか分かんなくなって「噛むな! 真面目にやれ!」って。そしたら向こうも「真面目にやってます!」だって(笑)。ラリー中に有線で言い合ってんの(笑)。
 僕らはそんなことないけど(笑)。速度の速い区間では、2つ3つ先まで次々と読み上げてくれないと間に合わないじゃないですか。その逆で、タイトなつづら折りのような区間を先まであまり早く言われても覚えきれない。場所場所によって、読み上げるタイミングを上手く取れるコドライバーが大事ですね。
―― それはもうコンビというか、ある意味一心同体というか。
 コドライバーはものすごく大事ですよ。今いっしょに組んでいるコドライバーはここ5年ぐらい一緒にやっているので、気心も知れています。ただ、コドライバーもベテランになってくると、初めてのドライバーと組んでもパッとできるんです。
 海外ではプロの外人としか組んだことがなかったんですが、コドライバーはまだまだ海外の方がレベルが上です。日本にまだそういう文化がないということもあるんでしょうね。ラリー北海道では、長いストレートの後にギャップがあってジャンプがあったんですけど、距離をちゃんと読んでいってくれ、と。そうじゃないと、200km/hぐらい出るんで、そのギャップが木の陰なんかで見えないんですよ。何mで1個めのギャップが来て、次に何mで2個目のギャップが来るかを、ちゃんと500m、400m、300mってカウントダウンしてもらって、ここというところでブレーキを踏んで車速を落として飛ぶようにしているんですよ。

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―― レッキの時は60km/hでしか走れないですよね。それなのに、コドライバーはラリースピードでカウントダウンできると?
 車両に距離計を付けているので、できるんですよ。カーブを曲がった瞬間に、距離を0にしてもらえば分かる。それで読み上げるわけです。今回はカウントダウンが正確に読み上げられなくて、500、400、300、200、100、ジャンプ! ってなった時に、あれ? ギャップがないやってなったわけ。で、どこどこどこ!? ってやっているうちにドカーン! と飛んでしまった。普通は20mぐらいのジャンプのところを60mも飛んだんだから。飛んだら危ないところは、ジャンプの前に減速するのが基本。その先が大丈夫なときは、そのまま行くときもありますけどね。霧の中でも、カウントダウンしてもらえると、だいたいそれで走れちゃいます。
 たしかに、霧なら行けますね。霧で前が見えなくても、ペースノートを読み上げてもらえば走れる。もちろん、視界がクリアな状態と同じタイムにはならないけど、かなり走れます。そのときは、心臓バクバクですけどね(笑)。なにせ前がほとんど見えないですから。
 それぐらい信用しなくちゃいけないんですけどね。でも、コドライバーに対して「なんだよー」なんてことはしょっちゅうありますよ(笑)。
 僕らの組みは長年やっていますから、一心同体みたいなもんです(笑)。
―― コドライバーもラリースピードで走れなくちゃいけないですよね。
 いや、コドライバーはほとんどみんなできないですよ。最初はみんなドライバーがしたいんですけど、そこのレベルで自分ができないなと分かった時点で、コドライバーになるんですよ。感覚は分かるので、指示はできる。Sebastien Loebというドライバーがいて、そのコドライバーのDani Sordoが言っていましたね。自分はドライバーがやりたいけど、そこまで走らせらない。ドライバーの技術を一番見られるのはどこかと考えると、コドライバーしかない、と。
 本当はコドライバーは、年上の方がいいんです。教えてもらいながらやって行く。コドライバーがドライバーをコントロールする。逸る気持ちを抑えたり、「お前ならいけるからがんばれ」と励ましたりね。コドライバーはドライバーを完全にコントロールするのが仕事みたいなもんだから。コーチングしながら走って行くイメージ。コドライバーの醍醐味は、ドライバーをコントロールすることと、自分の言うことをドライバーが忠実に守ってくれること。

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-- ところで、ラリーの醍醐味のひとつがコーナーでの派手なドリフトですよね。それが、みんながよく知るラリー映像だったりします。そういうところをみんなにもっと見てもらいたいですか?
 そういったシーンは見ていて楽しいですからね。あと転がったり、道から落ちたりとか(笑)。
-- ギャラリーコーナーでは、魅せてやろうと思うこともあるわけですね。
 それは、新井選手が好きですよ(笑)。
 (笑)。
 (笑)。正直、ファンサービスはやっぱりありますね。若干タイムは遅くなるけど、やっちゃお、みたいなね。
―― 今のラリーを取り巻く状況を見ていると。今後若い人で、全日本で勝てる体制でやっています、という人は出にくくなるんじゃないですか?
 今、上のカテゴリーでやるのは大変ですよね。だから、逆にTOYOTA 86なんかがちょうどいいんです。車速も速くないから、クルマの負担も少ないんで、年間コストが違いますからね。Vitzから始めてもいい。86ぐらいまでのクラスでやっているのが、いいのかもしれないですね。ラリーを楽しむという意味でもいいし、ステップアップするという意味でもいいですね。ラリーを始めて、いきなりカッコイイからって、LancerやImprezaにしても、乗りこなせないですからね。壊してお金が掛かるからやめちゃうっていう人もいますからね。
―― ラリーストを育てるという観点からも、ラリードライビングを習えるようなシステムってあるんですか?
 サーキットのスカラシップのように、段階的にラリードライビングを覚えていくというものが海外にはあります。国内は、ショップ単位とかクラブ単位で先輩に教えてもらったりするしかないのが現状です。
-- なかなか厳しい状況ですね。育てるという意味では、新井さんも奴田原さんも息子さんがいらっしゃいますよね。
 いきなりですね(笑)。実はラリー北海道のレッキの前日に、息子の結婚式だったんですよ。結婚式で新郎の父としての挨拶をして、翌日レッキしていました(笑)。

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 それでラリー北海道を優勝しちゃうんだからね(笑)。私の息子はラリーをやっていて、ラリー北海道にも出ていました。
--新井大輝選手ですね。今、自分の息子が自分の背中を追って来ているわけですけど、彼を応援したいとは思いますか?
 応援したいというか、あまり遠回りをさせない方がいいなとは思います。私にしても奴田原選手にしても、ある程度全日本で勝ってから海外に行ったから、どうしても年をくっちゃうわけですよ。私が海外に行ったのは、30歳で全日本チャンピオンを取ってから。
 僕も30歳過ぎてからですね。
 となると、一番吸収する時期を過ぎちゃっている。海外の速い連中は、23、24歳ですから。私が23、24歳のときに私の35、36歳ぐらいの速さがあれば世界チャンピオンになれたかもしれない。そう思うと、今息子は21歳だから、これから海外でやれば速くなれる可能性はあるでしょうね。
 彼は吸収が早いからね。言われたことがすぐにできるようになる。あの年でトップクラスのラリーに参戦できることは、羨ましいよ。
 子供の頃から、私の横に乗って山道を走っていたということもあるでしょうね。走るといってもドライブではなくて、ラリーの練習。だから思い切り走るわけです。幼い頃からクルマの動きを体感しているから、「動かし方」を知っている。彼が最初にクルマの運転をしたのは小学校の5-6年の頃。クローズドのダートコースを、ラリー仕様のスバル・ビビオで走っていた。「ブツけるなよ」と言っておいたら、本当にブツけなかった。
 それはスゴイわ。早く海外で経験を積んだ方がいいだろうね。彼に限らず、才能のある人間が世界のトップを目指すなら、本当は日本ではやらない方がいい。やっぱりスピード域が全然違うから。まだ北海道ラリーは速度域が速いからいいけど、本州でやるのは速度域が低いし、道にアップダウンが少なくて平らだから、ドライビングが上手くならない。
 日本は林道をメインで使っているから、どうしても速度域が低くなっちゃうんだよね。
 ギアで言うと、海外は4速、5速を使う。日本ではサイドブレーキターンは上手くなるかもしれないけど、それでは速くはならない。
 タイヤも違いがあって、日本のターマックはSタイヤだけど、海外は細いスリックを履く。だから、クルマの動かし方が全然違う。例えば、ダートのコーナーリングは、基本的に滑らせます。サーキット走行と一番違うのがここ。サーキットの場合、ブレーキを踏んでコーナーに入ってからハンドルを切ってクリップにつく。ラリーの場合は、ブレーキを踏むのと同時にクルマの向きを変える。で、そのまま滑らせながら減速させて、コーナーに入ったらそのまま出口に向かって加速する。一般的に考えれば、ストレートの段階でクルマの向きを変えていることが普通じゃないですからね。この動きを覚えるにしても、速い速度でないとダメ。遅い速度ならコーナーに近いところで滑らせればいいけど、150km/hとか200km/hなんかの速い速度だと、かなり手前からクルマの向きを変えて滑らせて行かないといけない。そういった経験値が自ずと変わってくるわけです。日本ではそれができない。
--ステージそのものも違うし、タイヤも違う。だから、海外へ行けと。
 そう。ラリーは一般道を使うので、環境だとか地形に適応できるかが大きく影響してくる。いろんな国のいろんなステージを走った人間が絶対に強い。

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-- ギャラリーの視点では?
 それは、観ている方も海外の方が面白いと思う。200km/hぐらいで飛んでいるからね。ジャンプする角度とか、その先の地形にも関係するんだけど、80mは飛ぶ。
 迫力が全然違うよね。
 ラリー北海道でも、速い速度でジャンプできるところなんかにギャラリーを入れられると、すごい迫力はあるだろうけどね。ただ、何かあったときに危ないから。その辺、海外はみんな自己責任。ジャンプで面白いのは、140km/hだと30mしか飛ばないのに、150km/hだと50m飛んだりすること。ここにも経験値が活きてくる。10km/hの差で、ジャンプがこれだけ違ってくるんだから、いかに正確にジャンプの手前で減速できるか。
-- 飛び過ぎちゃうといけない、と?
 エンジンがあってフロントは重いから、頭から突っ込む可能性も出てくるから。クルマを壊しちゃう。
 それと、地面に着いていて加速した方が速いこともあるよね。140km/hで30m、150km/hで50m飛ぶなら、30mで着地して加速した方がいい。それが130km/hになっちゃうんだったら、差し引きして150km/hの方がいいとかね。
-- それは面白いですね。ちなみに、お二人はドライバーのタイプは違うんですか?
 いや、同じようなタイプだと思いますよ。
 そうそう。
 極端に違うことは絶対ないから。
 クルマを動かしたり、滑らせたりする感覚もきっと近い。ただ、新井選手が乗るインプレッサの方が動きがFR的で曲がりやすく、僕のランサーは4駆的でアンダーが強い、というようなクルマのキャラの違いはあると思うけど、やっていることはたぶん一緒。速く走るためには、レコードラインはやっぱり一緒になってくるしね。

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-- ラリーをもっとみんなに知ってもらえる方法はないですか? 海外のラリーは街を上げて盛り上げるというのがあって、注目度も高いと思うんですけど、国内はまだそこまでいっていないような気がします。
 ラリー北海道もそうですし、新城ラリー、モントレーとかも、昔と比べて、かなり地域と一体となって大きなものになって来ていますけどね。
 盛り上げるには報道も大切だと思うけど、ラリーの報道で難しいのは、画を撮りづらいところ。例えばテレビカメラひとつとっても、レースだと同じところを何台もの車両が何回も通るので、画になりますよね。でも、ラリーの場合は、1台ずつが1回しか前を通らないし、どんどん先に行ってしまうので、カメラが追いかけないといけない。しかも、コーナーで待ち構えていても、そこをどんな風に走って行くかなんて、ドライバーに教えてもらわないと分からない。実際に、カメラマンからどこで撮影したらいいか聞かれますよ。ここは車速が高いからジャンプしますよ、とかね。いろんな意味で、ラリーを撮影するのは難しい。”ヘリ”が一番いいんだけど、お金が掛かる。
-- ラリーといえば、ヘリとインカーが有名ですからね。これは見どころだと思うんですけど、ラリーとサーキットではピットですることが全然違いますよね。チーム意識とか仲間意識とかは、やっぱりかなりあるんですか?
 レースの場合は、ピットに入っちゃったら優勝はもうダメですよね。でも、ラリーの場合は15個のサービスでいかにできるかを競うことでもあるから、メカニックも絶対に直そうする。すごくチームプレーなんですね。ドライバーはなるべくクルマを壊さないようにして、サービスではクルマを直すのではなく、次のセクション用にクルマをセッティングできるという状況にしなくちゃいけない。

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-- 最後に。観る側にとってこれは気になることなんですけど、おふたりとも今もまだラリーは楽しいんですか?
 楽しいですよ。実は僕はあんまり人と争うことは好きじゃないんですよ。レースは格闘技系でしょ。相手より前に入ればいいから、ブロックしたり抜かせないということが起きる。ラリーは、相手はあんまり関係なくて、自分のベストが出しきれるかどうか。自分の限界を突き詰めていく。相手と比べるのは、最後ゴールしてからなんです。タイムを比較して、例えば5秒負けているなら、どこが悪かったんだろうと考えるわけです。じゃ、次はこうしてみようとかね。そういうところが楽しいね。だから、ラリードライバーはみんな仲がいい。かなり和気あいあいとしています。レースのように同じところをグルグル回るんじゃなくて、常にコーナーなりが変わったり条件がいろいろ変るから、ラリーは楽しいよね。
 私も楽しいですね。2013年はS耐で、GT300のポルシェに乗っていました。レースはいかに正確に走れるのかが大事で、ラリーで使うような中途半端なアクセレーションはない。限界までギリギリまでアクセルを踏んで行って、ブレーキもギリギリ。すべてが限界ギリギリのところでやるわけです。路面μが変わらないのも分かっているから、その辺は安心して行ける。その限界ギリギリを何周走っても正確に繰り返せるかを競うのがレース。ラリーの場合は、ブレーキポイントにしてもなんにしても、いろんなシチュエーションによって全部が極端に変わってくる。まさにアドリブの世界。その辺の難しさがあって、これまでの経験値が活きてくるところでもある。だからラリーは面白いし、今もまだ飽きることがない。いろんな技が使えるのがいいんだよね(笑)。